
2009年2月25日(水)に報道された銀座眼科の感染性角膜炎大量発生は、一見信頼できそうに見える
施設が、適切なレーシックからはほど遠い手術を行っていたという、最近のレーシックをとりまく
ゆゆしき状況の典型でした。実際ここ1年ぐらいの間、当院でも他施設で受けたレーシックの後、
視力が不調だといって来院する人が増えています。
その原因として挙げられるものには、過矯正、偏心照射、授乳中に行われたレーシックなどがあります。
これまで当院では、当院以外でレーシックを受けた人の再手術に対しては消極的でした。
その理由は、前の施設で受けたレーザー治療に当院が何らかの手を加えてしまうと、その患者さんは
前の施設に対して視力改善のための治療を要望することができなくなってしまうことが多いからです。
しかし現実には、レーシックを行う施設によっては執刀医に幅広い眼科手術を手がけた経験がないために、
手術後の合併症の治療を行うに十分な医療知識と技術をもたない施設があります。
そのような施設では、いくら患者さんが手術後の視力不調を早い段階で医師に伝えても、適切な対応を
してもらえないということがありますし、また、その施設に備えている器械では、治療は不可能で
あろうと思われる場合もあります。手術技術や器械の性能以前の問題として、レーシックを
するべきでない状態の人に対してもレーシックを行うというような驚くべきことも起こっています。
このようなレーシックの現実を踏まえ、当院では当院以外の施設で受けたレーシックで視力不調などの
トラブルを抱えている人に対して、その原因を追究し、視力回復に向けての治療が可能かどうかを
検討する検査と診察を行うことにしました。
昨年当院に来院した、授乳中にレーシックを他施設で受けて手術後の視力が不調であるという女性は、
手術前にその施設の医師に自分は授乳中であるがレーシックを受けても大丈夫かと尋ねて、
大丈夫だと言われたからレーシックを受けたということでした。日本眼科学会のガイドラインでは、
妊娠・授乳中の女性にレーシックを行うことは禁忌とされていますし、FDA(米国食品医薬品局)の
ホームページでも屈折が不安定になりやすいため、リスクについては医師とよく相談するようにと
書かれていますから、本来であれば、レーシックは出産後月経が定期的に来るようになるまで
延期するのが、眼科専門医の常識です。
他施設でレーシックを受けた人が手術後の視力不調のために来院されるケースで共通する点は、
「自分が手術を受けた施設では、視力検査の結果では問題ないのでこれ以上の治療は必要ないと
いわれたけれども、どうも納得できない、原因が知りたい」ということでした。
品物が壊れた場合は、在庫の中から同じ品物を出して取り替えれば良いだけですが、私達の眼は
そういうわけにはいきません。これまであまり公の場では口に出さないできたことですが、
2009年1月の日本眼科手術学会で実際に公表されたことですので、ここで公表してもよいかと思います。
東京の銀座眼科でレーシックを受けた患者さんに起こったような、感染性角膜炎により最悪の場合には
角膜移植が必要となるような深刻な事態は、私達が在住する関西でも起こっています。
学会で、東京の某眼科(のちの報道で銀座眼科だとわかりましたが)でレーシックを受けた後に
感染性角膜炎を発症した、複数の患者さんが治療を受けている医療施設に関係する医師が、
このようなレーシックのゆゆしき事態は何とかしてなくさなければならないと問題提起した際、
関西の眼科専門医からも、自分も同じような角膜がひどい状態で来院した患者さんを診察したという報告が
ありました。私も昨年、角膜移植にいたる事例よりは程度は軽いものの、友達がレーシックを
受ける前よりも受けた後の視力の方が悪いけれど、何とか治す方法はあるかという相談を若い看護師から
受けたことがあります。そのときは、ご本人を診察していないので詳しいことはわからないけれども、
話の内容から推察するに感染性角膜炎が原因で視力が低下したものと思われる、
今になってはおそらく視力の回復は困難かも知れないと伝えました。
レーシックの手術は、眼科の手術を幅広く手がける医師から見れば、手術が器械によって
自動化されている部分が多いので、技術的な難易度はそれほど高くない手術です。
ですから銀座眼科がそうであったように、眼科専門医でない人でも、どこかで手術器械の操作方法を
覚えれば、割と気軽にレーシックを行うような状況が存在しています。
また、インターネット上のホームページやパンフレット等に書かれている情報が正しくないことも
あるということは、銀座眼科の例でもよくわかります。たとえば銀座眼科のホームページはより
多くの人々の眼に触れるように、インターネット検索ページ上部の『スポンサーサイト』に
常時掲載されていましたが(そもそも一般に医療機関がスポンサーサイトに自分のホームページを
掲載することはあまりないことですが、その理由を説明すると長くなるのでここではしません)、
そこに書かれていた内容と行われた医療の実態は全く違いました。
今回の感染性角膜炎大量発生の原因は、器具の滅菌がずさんであったことにつきますが、
「手術は清潔であるはずだ」という私達の常識と違う次元でものを考える医療施設もあるということは
明らかです。ちなみにレーシックにかかわる器械のメンテナンスは、年間数百万円かかりますが、
小さな器具の滅菌さえきちんと行われていなかったのなら、大きなレーザーのメンテナンスは
果たして行われていたのだろうかと不安になります。
最近よく見られるレーシック後の再手術を保障するということも、現実には多くの場合において
困難であるということは、レーシックを良く知っている眼科専門医なら誰でもわかっていることでしょう。一番わかりやすい例で言えば、レーシック後の近視化を矯正する再手術です。
レーシックはレーザーで角膜を削ることで視力を矯正する手術ですから、角膜の厚さが削る量に
不十分であれば、最初の手術であろうが再手術であろうが手術は行えません。特に度がきつい近視の人は、
レーシック後の近視化が起こりやすいにもかかわらず、最初のレーシックで角膜を削る量が
多くなりますから、1回目のレーシックは可能だけれども2回目は不可能という場合があります。
ちなみに、当院でのレーシック後の再手術はどのくらい行われているのかというと、現在使用している
器械では全体の1%以下です。もちろんこの数字の背景には、もともと小数視力で0.1もなかったぐらいの
高度近視だった人が、レーシック後に視力を回復した後で近視化が起こっても、レーシック前の生活に
較べれば便利なので、ご本人としては近視化があっても満足していて再手術は希望しないという場合も
あると思います。
レーシック後の再手術は、高度な眼科医療判断が必要となるうえ、ケラトエクタジア(角膜拡張症)などの
重篤な視力低下をもたらす合併症の発症リスクも高まります。
レーシックはもちろん、どのような手術においても100%安全な手術というものはなく、リスクは
必ず存在しますから、再手術を考える場合は十分な検査をして医師と相談の上、慎重に決断することが
大切です。当院が現在使用している手術器械は、以前使用していた手術器械に比べると角膜を削る量が
少なくてすむので、また、レーザー照射の方法にもいろいろなパターンがあるので、場合によっては
他の手術器械では不可能な治療が行える可能性があります。再手術は、検査をすればその日のうちに
解決策が考えられるような簡単な話ではありませんが、現在他施設で行われたレーシック後の視力不調で
悩んでいる人がいらっしゃるようでしたら、その視力不調は行われたレーシックによるものなのか、
それともレーシック以外のところに何かあるのか、一度調べてみてもよいかと思います。
2009年3月11日
医療法人社団秀明会 遠谷眼科
遠谷 茂
(日本眼科学会認定眼科専門医、医学博士)
手術についての詳細は下記フリーダイヤルにお問い合わせください。





