緑内障について


 一般の患者さんに対して病気をわかりやすく説明しようという目的から、医学的な表現とは異なる部分もありますがご了承ください。

▼このページの目次

  • 1.緑内障の一般的な説明
  • 2.緑内障の診断と経過観察
  • 3.緑内障の治療
  • 4.緑内障のセカンドオピニオン

1.緑内障の一般的な説明

 緑内障ということばを聞くと、眼の中が緑になってしまう病気なのかと思われるかもしれませんが、そうではありません。古代ギリシャの時代に、視力がとても落ちる病気にかかった人の眼が、灰色がかった青緑色に見えたらしく、そのことが緑内障の由来になっているようです。
 それでは緑内障がどのような病気なのかということを、日常生活のたとえで説明してみましょう。テレビの配線コードがどこかでおかしくなっていたら、電気がうまく通じないので、テレビ画像がきれいに映らないかも知れません。カメラで撮った写真を印刷しようとするとき、画像をプリンターに転送するケーブルに何か問題があれば、印刷がうまくできないかも知れません。これと同じような状態が私達の眼で起こるときが、緑内障の状態だと思ってください。ここでいうテレビの配線コードやケーブルは、私達の眼では視神経にあたり、画像を映すテレビ画面やプリンターは、私達の身体では脳にあたります。

 私達がものを見ているときは、眼の中に入ってくる光は網膜のところで集まり認識されて、視神経が画像情報として脳へ転送します。脳がその画像情報を最終的に認識したとき、私達は「見えている」と感じています。この情報伝達の役割をする視神経が何らかの原因でだめになってしまうと、画像情報をうまく脳に送ることができなくなるので、ものが見えなくなってしまいます。これが緑内障という病気です。緑内障は成人の失明原因の第一位となっていて、40歳以上の20人に1人は緑内障であるといわれています。知らないうちに緑内障になっている人も多いです。
 緑内障になっていても、最初は毎日少しずつ、自覚症状なしに病気が進んでいきますから、なかなか気がつきません。また、片眼の視力が悪くなっても、もう片方の眼がカバーして毎日ものを見ていることが多いので、よけいに気がつきにくいのです。会社の健康診断や他の眼の病気で眼科にかかって、そこで眼の検査をすることで、緑内障を発見することが多いですから、40歳を過ぎたらぜひ眼科の検査を一度受けていただきたいと思います。もし検査をうけた時点で、緑内障とは確定しないけれども、緑内障になりそうな眼だということであれば、これから定期的に眼の状態が変わっていないかを検査してください。特に両親や祖父母に緑内障の人がいる人は、ご自分も体質が似ているはずですから緑内障になりやすいです。また、きつい近視の人も緑内障になりやすいと考えられています。
 緑内障が進んだら、どんな症状がでてくるかというと、いつも目をあけたときに決まった場所が見えづらいと感じるようになったり、見える範囲が狭くなってきたりします。デジカメとパソコンの例でいえば、デジカメとパソコンをつなぐケーブルが故障しているために、パソコン画面にデジカメでとった写真がうつらない状態です。デジカメとパソコンの場合なら、ケーブルを新しいものにすればよいだけですが、私達の眼の中にある視神経は、細い糸が束になったひものような構造をしているのですが、何らかの理由で視神経がだめになってしまったところが見えなくなるのだと思ってください。だめになった視神経は、残念ながら今の医学では元通りにすることはできません。ですから、今の視神経の状態をできるだけキープし、今見えているところをこれからもできるだけキープしていこう、という考えで治療をしていきます。

正常な眼の見え方イメージ

皮質白内障

 

緑内障の眼の見え方イメージ

核白内障

 

 緑内障になる原因としては、栄養を運ぶ役割をもっている眼の中の房水といわれる透明な血液のような水の流れが滞り、悪くなることで、眼圧という眼の中の圧力が高くなって眼球が硬くなり、そのために脳に画像情報を送っている視神経がだめになってしまうということが考えられています。眼圧が高くなるというのはイメージしづらいと思いますが、風船に息を吹いてふくらますときに、もうそろそろ風船が固くなってパンパンかな、という状態が眼の中で起こるようなとき、そういうときが眼圧の高い状態であると考えてください。眼圧が高い時に眼はパンパンになって固くなっているので、網膜と脳をつないでいる視神経を押しつぶしたり、傷つけたりしてしまうのです。
 傷ついた視神経は、現在の医療では回復させることができないので、緑内障の治療としてはまず、眼の中の水の流れである房水の流れをよくして、眼の中の圧力である眼圧が高くならないようにし、これ以上視神経がだめになってしまうのを防ぎます。

 緑内障には、眼の中の房水の流れがスムーズかそうでないかということで、いくつかの種類に分けられています。台所の流しの水の流れ方で考えてもらいますと、流しの排水口がつまっていなくて、水がサラサラ流れるようだと、排水口のところにかかる水圧はそれほど高くはなりません。このような房水の流れが眼の中で起こっているときは、正常な状態です。しかし、排水口が何かでつまりかけている場合には、同じ量の水を流したときでも、排水口のところにかかる水圧が高くなります。排水口に水がちょろちょろでも流れているような状態で眼の中の房水が流れているときは開放隅角緑内障、排水口がまったくふさがってしまって、水が流れない状態になっているような状態で眼の中の房水の流れがストップしてしまったときは、緑内障では閉塞隅角緑内障といいます。閉塞隅角緑内障になる人は、あまり多くはないのですが、もしなってしまうと眼や頭が急激に痛くなり、手当が遅れると数日で失明してしまうことがあります。

 眼の中の圧力である眼圧は、血圧と同じように、人によって、時間によって、季節によって、個人差があります。もともと眼圧が低いのがその人としては普通の人もいれば、眼圧が高いのがその人としては普通の人もいます。つまり、高い、低いは人によって違うということなのですが、それでも一応の目安として眼圧が正常であると考えられている範囲は10~21mmHgぐらいだといわれています。

 ある日、目が痛いといってかけこんできた患者さんは、緑内障が急に進んで、すぐに緊急処置をしないと失明してしまうような状態でした。眼圧をはかると、60mmHgでしたので、とても正常だとはいえない数字でした。このような患者さんの場合は、どんなに患者さんが待合室で検査や診察の順番を待っておられても、超特急で順番飛ばしにして、一刻も早く眼圧を下げないといけません。そうしないとどんどん視神経が眼圧に負けてしまうので、視力がどんどん落ちていき、回復できなくなってしまうことがあるのです。

 それでは、眼圧の数字だけを見て緑内障かどうかを簡単に判断できるのかというと、そう簡単でもないのです。日本人には、欧米人とは体質が違うのか、眼圧の数値が正常だといわれるような範囲にあっても緑内障になってしまう人が非常に多いのです。こういう緑内障は眼圧が正常なのに緑内障になってしまうので、開放隅角緑内障という種類のなかでも、正常眼圧緑内障という名前がつけられています。そのほかの緑内障には、先天性緑内障や続発性緑内障など、いろいろなタイプがあります。


2.緑内障の診断と経過観察

 緑内障の診断と経過観察でまず重要なのは、眼圧、視野、視神経乳頭を見る眼底検査、そして光干渉断層計(Optical Coherence Tomography, 略してOCT)による網膜の検査です。眼圧については前のところでも説明しましたが、簡単にいえば眼のかたさ、視野は眼を動かさないでものが見える範囲です。視野検査では、あちこち移動する目標を、眼を動かさないで見ることにより、どこが見えていて、どこが見えていないかを判断します。下の画像は視野検査のデータですが、見えていないと思われるところが黒い部分となって表れています。ただしこの視野検査は、患者さんの自覚に基づいて行われる検査なので、出てくる結果がいつも同じではありません。本当に緑内障の病気のせいで見えなかったのか、たまたまその日は体調が万全ではなく、集中力が途切れていて見えなかったのかわからないところもありますから、厳密な意味ではデータを比較するということが難しいかもしれません。

glaucoma2

 視野検査画像

 

 正常な人の視神経乳頭

核白内障

 

 緑内障の人の視神経乳頭

皮質白内障

 

 最近もっとも注目されている方法としては、光干渉断層計(OCT)という検査器械により眼の中の網膜の状態を検査する方法です。網膜の状態をμm単位の正確さで調べることができるので、緑内障の確定診断をするための方法のひとつとして、OCT検査は緑内障の診断において重要な役割を果たしてきています。人間ドックで緑内障があるかもしれないので、眼科で詳しい検査をしてくださいといって来られた人は、OCT検査の画像を見れば、本当に緑内障が起こっているのかどうかが、かなり高い精度でわかります。

特に問題がない眼の検査画像(両眼)

核白内障

 

緑内障の眼の検査画像(両眼)

皮質白内障

 

 緑内障が進んでいるかどうかを考える上では、緑内障と非常に深い関係があるとされているガングリオン・セル・コンプレックス(Ganglion Cell Complex、略してGCC)の厚みにも注目をします。それは緑内障が起こってくると一般的にはGCCの厚さが減ってくるとされているからです。

 また、緑内障の疑いがあるといわれている人や、すでに眼科で目薬をもらって治療をはじめているような、緑内障になってしまったことが確実な人は、前に検査したときと比べて、網膜の状態に変化があるのか、それともないのか、緑内障が進んでいるのか、現状維持が続けられているのか、というようなことが、OCTの画像データを時系列に比較することでわかります。下の画像では、左側の列にある黄色の四角の数字が最初にOCT検査をしたときの網膜の厚みのデータ、その右にある赤い○がついたデータが、2回目に検査したときのデータがどのぐらい最初のデータと違うかということを表しています。正常な眼のデータなので当然のことですが、変化はゼロとでています。
検査ででてくる数字はμm単位(1000分の1ミリ単位)なので、少しの誤差なら気にしなくて大丈夫です。

特に問題がない眼のデータ比較(最初のデータと2年後のものとの比較、両眼)                                  右眼                  左眼

 次の緑内障の眼のデータを見てみます。下の画像では、最初のデータから7か月後、10か月後と3度のデータをとっていますが、特に異変は起こっていません。この患者さんの場合は、きちんと目薬もさせていて、その効果がでているので、緑内障の進行もおさえられていると考えられます。

緑内障の眼のデータ比較(最初のデータと7か月後、10か月後のものを比較、両眼)

      右眼                 左眼

 特に近視が強い人の眼の場合は、普通のOCT検査では異常がでやすいために、本当は緑内障ではないにもかかわらず、緑内障であると診断されてしまうことがあるのですが、遠谷眼科のOCT(日本のNIDEK社製造 光干渉断層計RS-3000 Advance)では、日本人の近視が強い眼の状態を考慮した特別な解析方法でデータの分析ができますので、普通の検査では緑内障が確定していると思われても、近視が強い眼であるということを前提に画像解析をしてみると、緑内障かどうかはまだいえない、この人の眼は緑内障にはなっていないのではないだろうか、と考えられるような場合もよくあります。

 下のOCT検査画像は、46歳女性の-10.75Dという強い近視の眼の解析画像ですが、左下の標準的な解析方法では赤いところ(通常ではない可能性が高いところ)がちらほらでています。しかし、右下の近視が強い眼の状態を考慮した解析方法では、赤いところがずいぶん減って、ほとんど緑になっています。ですから現時点では緑内障のことをあまり心配しなくてもいいでしょう。しかし非常に強い近視ですから、緑内障になるリスクが高いということは覚えておいてください。

標準的な解析方法皮質白内障

 

近視が強い眼の状態を考慮した解析核白内障

 

 緑内障を進ませないためには視神経がだめにならないよう守ることが大事です。誰でも年齢が高くなるとともに視神経も少しずつだめになっていくのですが、緑内障の人はそのスピードが他の人よりも速いのです。
 緑内障になると、まず目薬で眼圧を下げることから治療が始まります。しかし時々、これまではうまくきいていた目薬が、ある日を境に突然きかなくなるというようなことが起こるので、今の目薬が自分の眼に合っているかどうか、効果が発揮されているかどうかを定期的に確かめることも必要なのです。

 OCTのデータが時系列に比較できるようになる前では、眼圧の数値と、視野検査の結果を合わせて診断する方法が緑内障診断の主流でした。しかし、眼圧は時間によって違うという点がありますし、視野もその日の患者さんの体調によって、また検査のボタンの押し方が上手か下手かによって、結果が違ってくるという誤差の部分がかなりありました。これでは目薬がきちんと効いているのかどうかもよくわからなかったし、視野検査をする患者さんの方でも、自分がうまく視野検査ができたかどうかを心配する人がとても多かったのでした。緑内障が失明につながる病気であることを知れば、検査の結果が毎回気になるのは当然のことだと思います。視野検査では、移動する目標が見えないと患者さんが自覚しないと結果にあらわれないのに対し、OCT検査では自覚にはまだ全く現れていないような網膜の小さな異変を、µm単位(1µmは千分の1mm)でとらえます。患者さんの自覚がない緑内障のわずかな兆候でさえ見逃さずに発見してくれますので、いち早く治療を開始することができるという点では、初期の緑内障を発見するためにはとても重要な検査だと思います。

 ただし、白内障になっているときは、眼の中に光がうまく通らないので、検査データがうまくとれないことがあります。
またOCT検査のデータは非常に精度が高いとはいっても、それだけでは判断が難しい緑内障のケースもありますので、やはり眼圧、視野、OCT検査の3つを総合的に判断し、数値の変化については医師とよく相談して、小さな動きに一喜一憂しないようにしていきましょう。


3.緑内障の治療

 緑内障の治療は、とにかくまず、眼圧を下げるということがとても重要です。治療としては、目薬で眼圧を下げる方法と手術をすることで眼圧を下げる方法があります。
昔の緑内障の治療では、目薬も数種類しかなかったので、眼圧が思うように下がらず、手術に踏み切らざるを得ない人が多かったのですが、最近では眼圧を下げる効果の高い目薬がたくさんでてきていますので、昔ほど緑内障手術が必要となる時代ではなくなってきました。ですから緑内障手術は、どの目薬を使っても眼圧をうまくコントロールできないという、八方ふさがりの状態になったときにするのだと考えてください。

 緑内障の手術をしても、視力が手術の前より良くなるわけではありません。緑内障手術をすると、眼圧を下げるということが第一目的になるので、視力が手術と同時に下がってしまう人がかなりいます。医学的には、放置しておけば高い眼圧のために視神経がだめになっていくため、とにかく眼圧を下げることが必要だ、となるのですが、患者さんとしては、手術をしても視力が下がって見づらくなってしまうのならば、もう少し手術に踏み切るのを待ちたい、という人もいるので、いつ緑内障手術に踏み切るかということはとても難しい判断であり、決断であると思います。

 いちばんしないでいただきたいことは、緑内障の手術をしなくても大丈夫だといってくれる医師を探して、あちこちの眼科を渡り歩くことです。以前、遠谷眼科で緑内障手術を受けられたある患者さんは、それまでの数年間に7か所ぐらいの医療施設に行かれていたのでした。はじめのうちは、きっと目薬で治療しましょうといわれていたのかも知れませんが、ある段階では、もう手術が必要だと医師からはいわれていたと思います。その患者さんがもっと早く緑内障手術を受ける決心をされていたなら、視力はもう少し良い状態に保たれたかもしれないと思うと、手術を受けたくないというお気持ちは大変よくわかるのですが、医師としては本当に残念に思います。あちこちの眼科をたずねている間に、どんどん時間が経ってしまい、緑内障も進んでしまいます。万一手術が必要となった時は医師とよく相談のうえ、どうか勇気を出して前向きに治療にのぞんでいただきたいと思います。


4.緑内障のセカンドオピニオン

 ある医師には緑内障のうたがいがあると言われ、別の医師には緑内障ではないと言われ、いったいどちらの意見が正しいのか知りたいのです、と尋ねてこられる患者さんが時々いらっしゃいます。そういうときの患者さんの気持ちとしては、緑内障ではないといってくれる医師の意見が正しくあってほしいと思う一方で、もし緑内障だったら放っておくと失明しないかと心配になり、毎日心おだやかでない日々を過ごされていると思います。

 検査データがあまり信頼できないと考えるようなときも実際あります。まず、近視がとても強い眼の場合は、OCT検査の器械の種類によっては、緑内障のように見えてしまうことがあります。視野検査では、検査のやり方に慣れていなかったために、また、瞼が下がっていたために、実際に見えている状態よりも悪く検査結果がでてしまったというようなことがあります。緑内障以外の病気で視神経の状態が変化したり、原因不明なことでも視神経の状態が変化したりすることもあるのです。緑内障ではなさそうな人が、全く副作用がないわけではない緑内障の目薬を長期間使い続けているということも、現実にはよくあります。このようなことは、慎重にならないといけないと思います。

 最近では、これまでにもお話しましたように、緑内障の確定診断をする方法のひとつとして、網膜の状態をμm単位の正確さで調べるOCT検査が重要な役割を果たしてきています。自分が緑内障という治らない病気にかかっていて、いつかはきっと失明してしまうのだ、と思って毎日悲観的に過ごすのと、緑内障にかかっている可能性は全くゼロではないけれども、そうでない可能性もたくさんある、万一緑内障であることが確定しても、定期的に検査をすることにより、病気の進行をきちんと把握して、できるだけ今の状態を保っていこうと考えて治療にのぞむのとでは、身体や心が感じるストレスが全然違います。また、きちんと治療を続けていれば、今では失明してしまうようなことはほとんどない時代になったとも思います。

 緑内障について不安な点があれば、どんなに小さなことでも早いうちに解決して、適切な治療を早く開始していただきたいと思います。緑内障に対する再生医療の研究もなされています。新しい治療が開発されて実施できるようになるまで、視神経をできるかぎり守っていきましょう。

 

※もっと緑内障について幅広く詳しい情報を知りたい人は、以下のページもご覧ください。

(学会の許可を得てリンクをつけています)

日本眼科学会のページ(緑内障)
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/ryokunai_ryokunai.jsp