他施設で白内障手術を受けた後、不具合が生じた患者さんたちのこと-その1

緊急のお知らせ (このお知らせは2014年9月に作成したものですので、現在の状況を知るためには、2016年の続編の「その2」をあわせてお読みください)
他施設で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けた後に 視力や見え方の不具合が生じた患者さんたちのこと-その1 —プレミアム(高級)ではなくベスト(最高・最良)の眼内レンズ選びのために—
遠谷眼科 遠谷 茂
多焦点眼内レンズは、遠近(2焦点)あるいは遠中近(3焦点)に焦点をもつ構造の眼内レンズです。多焦点眼内レンズを眼の中にいれると、手術後は眼鏡をあまりかけなくても、裸眼で遠近にあるものがよく見えるようになります。遠谷眼科で多焦点眼内レンズによる白内障手術をうけた患者さんの中には、点数で評価すると100点満点をつける人がいるぐらい、患者さんのライフスタイルとレンズの性能がうまく合えば、日常生活がものすごく便利になって役に立つ眼内レンズなのです。多焦点眼内レンズによる白内障手術は、2004年ごろにヨーロッパ、2005年にアメリカで行われるようになり、日本では2007年に厚生労働省がレストア(アメリカAlcon社、2焦点)、リズーム(アメリカAMO社、2焦点、現在は製造なし)という2つの多焦点眼内レンズを認可しました。その後テクニス・マルチフォーカル(アメリカAMO社、2焦点)、アイシー(日本HOYA社、2焦点)というレンズも認可されました。そのほかレンティスMプラスX(ドイツOculentis社、2焦点、未承認)、ファインビジョン(べルギーPhysIOL社、3焦点、未承認)など、さまざまなレンズが開発されてきました。数年前までは、レンズの種類が限られていて、どうしてもレンズの性能が患者さんの希望に追いつかないところもありましたが、現在では、患者さんの眼の状態と職業や趣味など日常生活の状況をよく把握して、いくつかあるレンズの中から最適なものを選んで眼内に挿入すれば、どの患者さんもかなり高い満足を得ることができる時代になったと思います。※下の画像は左からReSTOR(レストア)、TECNIS Multifocal(テクニス・マルチフォーカル)、iSii(アイシー)、LENTIS Mplus X (レンティスMプラスX)、FineVision(ファインビジョン)。

それなのに、ここ数か月の間に(※2014年9月の時点でのここ数か月)遠谷眼科では、他施設で厚生労働省が認可している多焦点眼内レンズを眼の中に入れたあと、視力や見え方の不具合が生じてしまったけれども、手術をした眼科では何もしてもらえないので、何とかこの見え方が改善しないかと来院された患者さんを何人も診察しました。

患者さんたちの眼を診察してわかったことは、ひとことでいうと、多焦点眼内レンズが合わない眼に、多焦点眼内レンズが入れられてしまっているということです。本当にゆゆしき事態だと思います。このような手術をした医師は、いったい何をどう考えて手術をしたのだろうかと思いました。このような手術後に見え方の不具合をかかえている患者さんの眼を診察すると、ほとんどの場合、乱視が大きいのです。このような人は手術前から、乱視のためにメガネなしの裸眼ではそれほどすっきりものが見えていた眼ではなかったのに、そこへ複雑な構造の多焦点眼内レンズを眼の中に入れてしまったので、よけいにどの距離にあるものもよく見えないという状態が起こっているのです。ひどい場合にはものが何重にも見えたり、いくつにも散らばって見えたり、流れるように見えたりして変な見え方が起こるので、兵庫県内の遠くの町から来られたある患者さんは、このような奇妙で不愉快な見え方のために、白内障手術を受けたあとはずっと泣いて、ショックのために食欲もなく体重も減り、これまでの仕事も続けられないならもう死にたいとまで思って毎日過ごされていたそうでした。以下に私が多焦点眼内レンズによる白内障手術後の不具合で、これまでにいちばんひどいと思った患者さんの裸眼での見え方を、2種類の検査器械がシミュレーションした画像を表示します。参考のために、普通にものがきれいに見えている人の裸眼での見え方のシミュレーション画像も一緒に掲載しますので、比較してみてください。人間の眼は、最終的には脳がうまく画像処理をほどこしてものを見るといわれるので、必ずしも検査器械がシミュレーションしてくるとおりに見えているとは限りませんが、それでも画像の赤丸の中にある黒い点が、左側の普通にものがきれいに見えている人のデータではきちんと黒い点のように見えているようですが、右側の多焦点眼内レンズ手術後に見え方がよくない人のデータでは、黒い点がぼわんとひろがって見えているようだと検査器械はシミュレーションしてきています。少なくとも、右側のような検査画像がでてくる患者さんが、よく見えてはいないということだけは明らかです。この患者さんは手術をした医師からは、「手術後に見えづらいのは、多焦点眼内レンズの見え方にまだあなたの脳が順応していないからだ」といわれたそうですが、そんな話ではありません。

そこで、多焦点眼内レンズによる白内障手術の後見え方がずっとおかしいといって来院された患者さんが手術を受けたといわれる施設では、いったいどのぐらいの眼科知識と手術経験のある医師が手術をしているのかなと思ってホームページを見てみると世界最高水準の医療を提供、名医の特集に紹介、有数の白内障手術件数、先進医療実施施設に認定、などと美々しい言葉や画像で飾られていましたので、うまく表現できないのですが何かへんな気持ちになりました。世界最高水準の医療が提供できるレベルならば、このような患者さんの不具合はもっと早くに改善できているはずで、それに、そもそもこのようなひどいことが起こる前に予防できているはずで、わざわざ患者さんが悩んだ末に遠谷眼科に来られることもないのです。手術をした医師が、患者さんが手術後に見え方がおかしいといわれているのに、どこがおかしいのかということに気がつかず、原因を調べようともせず、経過観察をしましょうというばかりで何か月も患者さんの眼をよく見えないまま放っておくというのは、医師として一体どういう考えをもって手術に取り組んでいるのかと思います。

このような多焦点眼内レンズによる白内障手術で見え方の不具合が起こると、すぐに複雑な構造の多焦点眼内レンズを眼の中から取り出して、従来から使われている単純な構造の単焦点眼内レンズに入れ替える手術をしないといけません。しかし、白内障手術をしてから1か月以上時間がたってしまうと、眼内レンズが眼の中にだんだん癒着してしまうため、入れ替え手術をするのが難しく、場合によってはできなくなってしまうのです。多焦点眼内レンズによる白内障手術の後に起こった見え方の不具合を解決するにも、タイムリミットがあるのです。多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けた後にどうも見え方がおかしいと思う人がいたら、たとえ手術を受けた施設では、新しいレンズに対する脳の順応をまって経過観察をしましょうといわれても、そんなことをしていると入れ替え手術には間に合わなくなるので、迷わずすぐに乱視矯正手術ができる施設で自分の眼に多焦点眼内レンズがあっているかどうかの検査を受けてください。対応は早ければ早いほどよいです。このことは、通常の単焦点眼内レンズによる白内障手術でも同様です。

白内障手術後に時間がたちすぎて眼内レンズの入れ替えができないとなると、次はダイアモンドメスによる乱視矯正手術か、エキシマレーザーによる乱視矯正手術をするということになります。自分の眼には乱視が割とある方だと白内障手術をする前からわかっている人は、今の自分の乱視についての説明をよく受けて、できれば乱視の矯正の知識と手術技術をもっている施設ではじめから多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けることをすすめます。

それから、「先進医療実施施設」という言葉に誤解が生じてはいけないと思うのは、この先進医療実施施設の認可というものは、多焦点眼内レンズによる白内障手術でいえば、手術を10件実施すればクリアできることになっています。つまり、手術の件数は問われるけれども手術の質についての評価はされない、ということなのです。それでも遠谷眼科が2009年1月に、全国で15番目に、兵庫県では初めて多焦点眼内レンズによる白内障手術を実施する先進医療実施施設であると認可をうけたときは、そのころ先進医療の認可を受けた施設はどの施設でも、患者さんに対してとても慎重に手術ができるかどうかを考えて手術を行っていたと思います。それが最近では、先進医療実施施設であるということや、名医の特集でとりあげられたということなどを積極的にホームページでうたっているようなところから、多焦点眼内レンズによる白内障手術後に視力や見え方の不具合を負った患者さんがでている、という私の眼科専門医としての常識では信じられないような事態が起こっています。2014年8月の時点では、日本国内でこの手術を先進医療として実施する施設は356施設ありますが、そのうち兵庫県の施設は28施設、大阪府の施設は33施設です。厚生労働省の認可する先進医療実施施設であるとうたいながらも、その手術の質には、高いものもあれば、低いものもあり、医療技術としては先進技術であるといわれることかもしれないけれど、実際に実施されている手術の質においては玉石混交の時代になってしまったわけです。

眼内レンズの入れ替え手術は、眼の中をきずつけないようにしてレンズを取り出さないといけないので、技術的に非常に難しく、通常の手術よりも何倍も時間がかかり、患者さんも医師も疲労困憊する手術です。患者さんは、医学的には白内障手術のもっとも危険な合併症である、失明につながる眼内炎にかかるというリスクに2度もさらされてしまうことになりますし、心理的には手術という大きなストレス体験を2度もすることになります。手術はもちろん成功するように全力をつくしますが、結果としてどのぐらいうまくいくかは、最初の白内障手術の切開創の大きさや位置にもよりますし、眼内レンズの癒着の程度にもより、やってみないとわからないのです。だから、「最初の手術でちゃんとしてくれていたら、こんなことにならないのになあ・・・」という気持ちに私はどうしてもなってしまうのです。

このような多焦点眼内レンズによる白内障手術の後に視力や見え方の不具合をかかえた患者さんにお話をきくと、ほとんど手術にかかわる詳しいことが医療施設の側から説明されていません。自分の眼の中に入れられたレンズが何というレンズで、どのような特性をもつレンズなのか、どのレンズに比べてどう違うのか、患者さんはよく理解されていません。遠近がよく見えるようになるけれども、夜間は光がぎらつくこともある、ものを見る距離によっては眼鏡を使わないといけないこともある、というぐらいの簡単なことしか説明されなかったといわれる人がとても多いです。きちんとした説明を受けていれば、職業柄きっと多焦点眼内レンズは選ばなかったはずだと思われるような人もいます。本来ならば多焦点眼内レンズではなくて単焦点眼内レンズの方が明らかに適した眼の状態だったのに、なぜか医師からはまったくそのような話もされないで、多焦点眼内レンズによる白内障手術があっという間にされてしまったという人もいます。

遠谷眼科でも、「先進医療の支払いをカバーしている生命保険にはいっているから、せっかく毎月の保険料を長年払ってきたのだから、値段の高い多焦点眼内レンズを使ってほしい」という患者さんや、「とにかく今ある中で一番値段が高くていい眼内レンズを入れてほしい」という患者さんが時々おられますが、「新しい」とか「値段が高い」ということは、レンズの質や患者さんの眼に合っているかどうかということとは全く関係がありません。ですから遠谷眼科では、「費用にかかわらず、ご自分の眼に合ったレンズが一番いいレンズなのです」とお話をしています。多焦点眼内レンズのことをプレミアム(高級)レンズとよぶ医師もいますが、海外の著名な医師の中には「多焦点眼内レンズのことをプレミアムレンズとよぶことには反対だ、それは多焦点眼内レンズの方が単焦点眼内レンズよりも優れているような誤解をまねいてしまうからだ」「単焦点や多焦点にかかわらず、患者さんの眼に一番合うベストの眼内レンズを医師は選ぶべきだ」という人がいます。私もその意見に心から賛成です。眼内レンズは単焦点でも、多焦点でも、さまざまな種類があって、それぞれに長所と短所があります。どのレンズがその患者さんの眼に一番合っているのか、視力の観点だけではなく、見え方の質の観点からも詳しい眼の検査を行って、その検査結果を見て考えたうえで患者さんの眼に最適なレンズを選びだす必要があります。

遠谷眼科に来られる患者さんには、プレミアム(高級)ではなくて、ご自分の眼に合ったベスト(最高・最良)のレンズを選んでいただき、手術後にはみなさんに、「手術はこわかったけどやってよかった、よく見えるようになってうれしい」と満足していただきたいと思っています。そのためにこそ、私たちも毎日勉強して頑張っているのです。どうか、お友達で、多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けたけれども、見え方がおかしいという人がいれば、視力検査ではなくて、見え方の検査をしてみてはどうか、と教えてあげてほしいと思います。完全によくすることはできなくても、追加再手術をすることで、今よりはずっと見え方がよくなることもあると思いますので、あきらめないでほしいと思います。もし今、どこかの施設で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けて、見え方がおかしいと悩んでいる人がいたら、勇気をだしてすぐに検査と診察に来ていただきたいと思います。対応が早ければ早いほど、状態改善ができる可能性も高いです。

2014年9月

この文章は2014年9月に作成しましたので、その後の報告は2016年12月に作成しました「他施設で多焦点眼内レンズによる白内障手術を受けた後に視力や見え方の不具合が生じた患者さんたちのこと(その2)-深刻な見え方の不具合の事例紹介-」に続きます。

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