円錐角膜の治療 コラーゲン・クロスリンキング


※手術費用:片眼15万円(自費診療なので保険がきかない治療です)。

 コラーゲン・クロスリンキング(以下クロスリンキング)は、角膜クロスリンキング、CXLとも呼ばれていますが、円錐角膜という、角膜が円錐のように突き出してくるように変形することで乱視が発生し、視力が大きく低下する眼の病気の進行を抑える治療です。円錐角膜の他に、レーシック後のエクタジア(ケラトエクタジア、角膜拡張症ともいいます)、ペルーシド角膜変性など、角膜の形が変形することにより視力が低下する同じような病気の治療としても使われます。

 


1.円錐角膜という眼の病気について

 円錐角膜(ケラトコーナス、Keratoconus, KC)は、通常は丸い形をしている、ドームのような形をしている角膜が、薄くなり、ゆがんで、凹凸ができる病気です。角膜のある部分が円錐形に隆起するために乱視が起こってくるので、視力が落ちてものが見づらくなってきます。たいてい、片方の眼から先に視力が下がってきます。見やすくするために瞼を狭めたり、夜間に街灯や車のライトがまぶしく感じたり、街灯やライトの周りに光の輪が見えたりすることがあります。角膜の隆起パターンとしては、角膜の外側へ向かって、また下側へ向かって突出してくることが多いです。あまり知られていない病気かも知れませんが、それほどまれな病気ではありません。 円錐角膜がなぜ起こるかという理由については、よくわかっていませんが、きっかけとして考えられることとしては、遺伝、眼をこするクセ、ホルモンの変化、コンタクトレンズが合っていなかったことなどが考えられています。いろいろな研究によれば、円錐角膜が起こる確率は0.05%から0.23%ぐらいであろうと考えられていますが、人種的なことも関係すると考えられていますので、発症率には幅がありますので、だいたい数千人に1人と思ってください。近視でコンタクトレンズを使っている人に起こりやすいと考える医師もいますし、アレルギーやアトピーが発症に関係しているのではないかと考える医師もいます。ダウン症の人の場合は、5.5%から15%ぐらいの人に円錐角膜が起こるといわれていますので、比較的高い数字になっています。 円錐角膜は、年齢や性別にかかわらず起こる病気ですが、14歳から16歳頃に起こる円錐角膜は両眼に起こることが多く、起こってからその後8年から10年ぐらいの間に病気が大きく進行し、その後は進行が緩やかになることが多いです。20代後半から30代前半で起こる円錐角膜は、進行が緩やかで、角膜移植手術が必要となるほど進行することはまれです。円錐角膜であるとはいえないけれども、円錐角膜の疑いがあるという状態の眼は、どの年代にでも見られます。このような眼には原因不明のいびつな乱視が見られます。角膜が変形しているのかどうか疑わしいけれども、急激な変化も特に見られないという状態が、円錐角膜疑いといわれる人に多いです。このような人は、1年に1回ぐらい、角膜の形を検査する検査をするとよいでしょう。


2.円錐角膜の人の角膜の形

 私たちの眼の表面にある角膜を、あたかも航空写真で空から山の上を見おろすように、表面の凹凸をあらわしたものが下にある8枚の画像です。これらは実際の患者さんの眼の角膜形状画像です。画像を見ると色の配置が、上下左右で対称になっているような角膜の形と、上下左右が別々の非対称になっているような角膜の形があるのがわかります。角膜の隆起している部分は黄色から赤色にかけての部分で、黄色から赤になるにつれてどんどん急な坂道になっている、角膜が平たんな部分は青色から緑色にかけての部分で、青色から緑色になっていくにつれて、ゆるやかな登り坂になっていると思ってください。急な坂道でも、赤色からさらに濃い紫色になるところは、非常に険しい山のようにもっと隆起しているところです。円錐角膜では、角膜の下方が隆起する傾向が多いようですが、それ以外の部分が隆起してくることもあります。下にある8枚の画像は、左のグループが正常なグループ、右のグループが正常ではないグループの角膜の形の例です。正常ではない角膜のグループの右側にあるものが円錐角膜、左側にあるものが円錐角膜疑いといわれるような角膜の形です。もちろん、正常ともいえず、正常ではないともいえない角膜の形もたくさんあります。患者さんの眼の形は、手相と同じように、千差万別です。

正常なグループの角膜の形の例

皮質白内障

 

 

 

正常ではないグループの角膜の形の例

核白内障


3.円錐角膜の治療方法

 過去に実施されてきた円錐角膜の治療法としては、メガネで視力を矯正する方法、コンタクトレンズをはめて角膜の突出をおさえることで視力を矯正する方法、角膜内に半円弧型のリングを挿入して角膜の突出をおさえることで視力を矯正する方法などがありましたが、どれも根本的に円錐角膜、ペルーシド角膜変性、エクタジアの進行を止めることができる治療はありませんでした。これらの方法を実施しても円錐角膜がどんどん進行して視力が著しく落ちてしまう患者さんがどうしてもあり、そのような場合には最終的には角膜移植という手術に進まざるを得なかったのでした。 このような中、20年ぐらい前にヨーロッパで開発された治療法が、ここ数年で世界に広く普及してきました。この治療方法の名前は正式にはコラーゲン・クロスリンキングといいますが、一般的にはクロスリンキング、あるいは角膜クロスリンキングとよばれることが多いです。 クロスリンキングはものすごく簡単にいうと、角膜を硬くすることで角膜の変形を防ごうとする治療です。円錐角膜の治療において、角膜移植という最終ステージにまで進む患者さんを少なくできるという点で、大きな意義がある治療法であると、世界中の眼科医が評価している治療です。


4.遠谷眼科が実施しているクロスリンキング
Epi-Off Crosslinking(エピ・オフ・クロスリンキング)

 クロスリンキングは、1993年から1997年の間にドレスデン大学で、テオ・ザイラー教授とエベルハルト・スポエル教授によって開発されました。リボフラビン(ビタミンB2)を含ませた角膜に紫外線(UV-A)をあてることで眼を紫外線から保護しつつ、角膜の強度を増して角膜の突出をおさえる方法です。リボフラビン(ビタミンB2)を含ませた角膜に紫外線があたると、角膜が固くなることがわかっているのです。またそれと同時に角膜に浸透したリボフラビン(ビタミンB2)は、リボフラビン・シールドと呼ばれる盾のようなものとなり、紫外線が網膜まで到達することを防いでくれるのです。 現在では、円錐角膜の進行を止めることができる治療はクロスリンキングだけであろうと考えられているので、クロスリンキングは世界各国で円錐角膜に悩む患者さんの眼の治療に積極的に使われる治療となりました。特に10代の患者さんに対しては、円錐角膜の進行が大人に比べてとても早いので、進行を確認する前にすぐにクロスリンキングを実施するという方法がとられることが多くなっています。遠谷眼科でも、春の学校検診のときに視力が落ちているので眼科に行きなさいと先生にいわれていた中学生の生徒さんが、クラブ活動が忙しくて、夏休みの終わりごろに親御さんとともに診察に来られたことがありました。しかしそのときにはもうすでに円錐角膜がかなり進行していて、角膜が薄くなり、クロスリンキングができない状態になっていたのです。角膜が薄くなってしまうと、いくらリボフラビンを角膜に浸透させても、紫外線が網膜に到達してしまい、害がおよぶため、クロスリンキングができないのです。この患者さんが、春の学校検診のときにいわれてすぐ来てくれていれば、クロスリンキングが間に合ったかも知れないと思うと、本当にとても残念でした。そして同時に、もっと患者さんに、円錐角膜かも知れないと近所の眼科の先生からいわれたときに、これが深刻な病気なのだと気がついてもらえるだけの情報があったならば、クロスリンキングにもっと早く来てくれたかも知れない、と思ったのでした。そのこともあり、遠谷眼科のホームページは、円錐角膜のことをかなりくわしく説明することにしました。 海外では、円錐角膜の患者さんにクロスリンキングを実施できる施設をすぐに紹介しなかったということで訴訟に発展した、という国もでてきているほどです。クロスリンキングは日本においてはそれほど知られていない治療法かもしれませんが、海外では非常に評価が高く、広く知られた治療方法です。遠谷眼科には、東南アジアのある国のパイロットが、パイロットのライセンスを更新する組織がそのように指導しているということで、わざわざ日本に1か月滞在して、クロスリンキングを受けに来られたことがありました。わざわざ飛行機にのってクロスリンキングを受けに来られたことにも驚きましたが、その人は、職業を継続できるかの瀬戸際ですから、といっておられました。ある国では、国が認可していない医療は、日本と違って、どの医療施設においても実施できないという背景事情がありました。

 

左の画像 上はリボフラビン(ビタミンB2)を含ませて紫外線をあてた角膜(=コラーゲン・クロスリンキングをしたもの)、下は何もしていない角膜。下の角膜はだらんとしていますが、上の角膜の方はしっかりしているのがわかります。画像はスポエル教授が提供されたものです。(Figure: courtesy of Prof. Spoerl)

 

 

 

 

 

 

 

 クロスリンキングが始まった当初は、30分の紫外線照射をするという方法が基本でしたが、患者さんおよび医師や医療スタッフの、長時間の治療に対する身体的・精神的負担を軽減するというニーズがあり、今ではそのためにさまざまな手術器械が開発されて、最も短いクロスリンキングの器械では、紫外線照射が数分で完了するというものまで出てきています。紫外線の照射時間については、紫外線照射のエネルギーを強くすれば、その分照射時間を短縮しても、同等の治療効果が得られるという考えがあるからです。水を沸騰させるのに、弱火なら時間が長くかかりますが、強火なら時間が短くて済みます。このようなことと同じことが、クロスリンキングの時の紫外線照射にも一般的にはあてはまると考えられています。ただ、この状況については、海外の学会では意見の対立があります。ここ数年、海外の学会でクロスリンキングの講演を聞いているところでは、紫外線照射の時間は短縮しても10分を少し切る程度までなら治療目的は達成されるが、あまりにも短い時間で紫外線照射を完了するようなものは眼に対する紫外線の影響がきつすぎるのではないか、という意見をもつ医師もいます。

 ヨーロッパの学会でクロスリンキングについての講演を毎年聴いていますと、インストラクションコースを主催するような著名な医師が何度も、効率を優先してはいけない、基本は忠実に守り、決して患者さんを研究のための実験道具にしてはいけない、といっているのがわかります。2016年のヨーロッパの学会では、クロスリンキングで使う薬のデータを集めるために、患者さんの眼が犠牲にされている、ある新しい薬については同等の効果があるという結果が論文にでたけれど、私はそうでないことを知っている、なぜならうまくいかなかった患者さんが私のところに来たからだ、といわれる医師もいました。医師が学会という公の場で、このようなことを本音で話すときは、基本を守らないで失敗した治療例を実際に自分の眼で見ていることが多いです。そして、患者さんの眼を守るために、そのような安易な治療を実施する医師に対して、警告を発している場合が多いと思います。こういうことは、実際に海外の学会に参加して話を聞いてこないと、決してわからないようなことなのです。 2016年のヨーロッパの学会でクロスリンキングの話を聞いていますと、ある英国の医師は、この治療が開発されたことにより、とくに子供たちにおける円錐角膜の発見率がとても上がった、これからは、きちんとしたクロスリンキングを実施して最大の効果を上げるよう、国をあげて啓蒙していくことが大事だ、というようなことをいわれていました。

 クロスリンキングの方法にも、さまざまな変形バージョンがでてきています。クロスリンキングの時に、角膜表面にある上皮を取り除いて、リボフラビンを角膜に浸透させて紫外線を照射するスタンダードな方法(Epithelium-off, Epi-off、エピオフ)、上皮を取り除かないでリボフラビンを角膜に浸透させて紫外線を照射する方法(Epithelium-on, Epi-on、エピオン)があります。エピは角膜上皮のこと、オフは離れる、分離するという意味、オンはついているという意味です。最初のクロスリンキング治療は1998年に行われ、この方法は角膜上皮を取り除いてリボフラビンを浸透させて紫外線を30分間照射するという方法で、ドレスデン・プロトコル(ドレスデンの実施方法に基づいているという意味)と呼ばれていますが、角膜上皮を取り除いて行うので、エピオフ・クロスリンキングです。

 どうして角膜上皮を取り除く方法と、取り除かない方法があるのかというと、角膜上皮を取り除くと、角膜が外気に直接さらされてしまうので、ばい菌に感染しやすく、そのために視力を著しく落としてしまうというリスクがあり、また、上皮を取り除くと、眼の表面に擦り傷ができたようになって、患者さんの治療後の眼の痛みが数日間続きますので、できるなら角膜上皮を取り除かないでクロスリンキングをやりたい、というニーズが強くあったからです。そうすると、エピオフ、エピオンのどちらでも、クロスリンキングの効果は同じなのかという疑問が起こってきますが、現在のところは上皮を取り除くエピオフの方法の方が、クロスリンキングの効果は高いことがわかっています。エピオフの方が、リボフラビン(ビタミンB2)が、角膜の奥深くまで浸透するためであろうとされています。リボフラビンがしっかりと角膜に浸透していないと、紫外線をあててもクロスリンキングの治療効果があまり出ないおそれがあるのです。遠谷眼科では、病気を根本から確実に治療するという目的で、エピオフ(角膜上皮を取り除く)の方法でクロスリンキングを実施しています。

  現在、クロスリンキングの治療が実施できる器械を製造しているメーカーは世界でいくつかあります。古参組のメーカーの器械として代表的なものはスイスのPeschke社のものやIROC社のものがあげられると思います。新参組ではアメリカのAvedro社のものがあげられると思います。遠谷眼科では、クロスリンキングの開発者であり、レーシックなどの屈折矯正手術および円錐角膜やそれに類するエクタジアなどの治療分野における世界的リーダーである、スイスのテオ・ザイラー教授の施設Institute for Refractive und Ophthalmic Surgery (IROC)が、当初のクロスリンキング器械のバージョンアップモデルとして開発したUV-X™ 2000を使っています。紫外線の照射時間が30分から10分に短縮されたので、患者さんが緊張しながらベッドに寝ている時間が短くなりました。また、紫外線の照射方法にも工夫が加えられて、角膜周辺部にもより効果的に紫外線があたり、治療効果が高まるように設計されています。スイスのチューリヒにあるInstitute for Refractive und Ophthalmic Surgery (IROC)にて、2011年6月にザイラー先生よりクロスリンキングについて直接指導を受けて治療方法を習得してきました。

  クロスリンキングは、着実に実績が重ねられてきていますが、それでもこの治療を行えばすべての人の角膜の突出が完全におさえられて、円錐角膜の病気の進行がストップし、視力も元通りに回復するというわけではありません。特に若い人の場合は、円錐角膜の進行する力が強いため、一度のクロスリンキングではおさえきれないという事例もあるようです。クロスリンキング後の治療結果については個人差があり、視力が非常に回復している人もあれば、それほど回復しない人もいます。まれに、視力が悪くなってしまう人もいるようです。しかし円錐角膜を放っておくと、そのうちどんどん視力が悪くなっていきますから、やはり円錐角膜と診断されたら、できるだけ早いうちにクロスリンキングを実施するのがよいと思います。クロスリンキングの成功率は、治療をするときの年齢や、角膜の突出程度によって変わってくることがわかっています。なお、クロスリンキングはきちんと実施すれば、ふたたび実施することは問題ないとされています。 クロスリンキングをすると、その効果は何年にもわたって角膜に影響を与え続けることがわかっていますので、クロスリンキングをした後の角膜は変化し続けていて、そのため視力が変動することがあるかもしれません。どのぐらい視力が変動するかということは、個人差があるので、治療の前に予測することはできないのですが、クロスリンキング後の角膜は、突出した角膜が少し平坦化する人が多いので、円錐角膜専用のコンタクトレンズをつけやすくなる人が多いとされています。コンタクトレンズがつけられない人は、眼鏡で視力を矯正することになりますが、眼鏡では矯正できない乱視もあるので、コンタクトレンズの方が見え方の質は上がるかもしれません。 円錐角膜やエクタジアになると、病気の進行とともに角膜が薄くなっていきます。クロスリンキングを実施するためには、角膜の厚さが400μm以上あるということが前提条件です。あまりにも薄い角膜になってしまうと、紫外線の悪影響が網膜に及んでしまうので、クロスリンキングができなくなってしまいます。コンタクトレンズをつけることで視力がでている人の中には、少しぐらい見づらくなっても、眼科に行くほどではないと思って、円錐角膜になっていることに気がつかない人がいます。しかし、いよいよコンタクトレンズでも視力があまり出ないという状態になって、あわてて眼科で検査をしてみると、円錐角膜がかなり進んで角膜の厚さが400μmを下回っており、クロスリンキングはもうできないという状態の患者さんもこれまでに何人かおられました。コンタクトレンズをして視力が出ていても、乱視が大きい人の場合には、円錐角膜という眼の病気になっているかどうかをまず検査していただきたいと思います。10代の子供たちのお母さん方は、クラブ活動や塾通いでどんなに忙しくても、円錐角膜ではないかと眼科の先生にいわれたら、すぐにクロスリンキングを受ける準備をしていただきたいと思います。