飛蚊症


黒い点のようなものや、虫のようなもの、ちりめんじゃこのようなものが水面に浮いているような感じで見える状態を、飛蚊症といいます。

目の前を、蚊がたくさん飛んでいるような感じです。
飛蚊症になっても目の痛みはありません。
目の奥にある、卵の白身のような透明なゼリー状の硝子体という部分が、加齢とともに濁ってくることがあり、そこでもともとあったけれど、今まではわからなかった硝子体の中の線維が動くと、その影が私達には黒い点のように見えてきます。誰でも加齢とともに経験する病気なので、ほとんどの場合は緊急に治療をする必要はなく、あまり心配をすることはありません。

慣れるといつのまにか気にならなくなる人もいます。しかし、飛蚊症が起こる場所によっては、どうしてもその症状が気になる人がいます。 最近ではレーザーを硝子体の浮遊物に効率的にあてて蒸発させる、Laser Vitreolysis(レーザービトレオライシス)という治療法が開発されています。痛みもなく椅子に座ったままで治療できる方法です。ただ、この治療ができる飛蚊症か、そうでない飛蚊症かは、飛蚊症の状態を実際に見てみないとわからないので、診察を受けてから医師と相談することになります。また、急に飛蚊症が起こった場合は、一度は念のために診察を受けてください。急に黒い点が増えたり、目の前に墨が流れてきたように見えたりしたときは、網膜剥離や硝子体出血という失明につながる重い病気がその後に起こることがあるので、こういう時は、どんなに忙しくても急いで診察を受けてください。

※もっと幅広く詳しい情報を知りたい人は、以下のページもご覧ください。
(学会の許可を得てリンクをつけています)

日本眼科学会のページ(飛蚊症)
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_hibun.jsp

飛蚊症の治療 Laser Vitreolysis 
(日本語名:レーザービトレオライシス)

※手術費用:片眼15万円(自費診療なので保険がきかない治療です)。


1.飛蚊症という眼の病気について

 飛蚊症は、黒い点のようなものや、虫のようなもの、ちりめんじゃこのようなものが水面に浮いているような感じで見える状態です。目の前を、蚊がたくさん飛んでいるような感じです。飛蚊症になっても目の痛みはありません。
 飛蚊症がどうして起こるのかというと、目の奥にある、卵の白身のような透明なゼリー状の硝子体という部分が、加齢とともに濁ってくることがあり、そこでもともとあったけれど、今まではわからなかった硝子体の中の線維が動くと、その影が私達には黒い点のように見えて飛蚊症が起こってくるのです。飛蚊症は程度の差はありますが、誰でも加齢とともに経験する病気です。ほとんどの場合は緊急に治療をする必要はなく、あまり心配することはありません。飛蚊症に慣れるといつのまにか気にならなくなる人もいます。しかし、飛蚊症が起こる場所によっては、どうしてもその症状が気になる人がいます。ごく少数の人の中には飛蚊症がもたらす影のようなものがわずらわしくてノイローゼになりそうだという人がいます。そのような人には、飛蚊症の症状を改善するための治療であるLaser Vitreolysis(日本語名:レーザービトレオライシス)が役に立つかもしれません。


2.飛蚊症の治療方法 レーザービトレオライシス

laser

 飛蚊症の治療方法であるレーザービトレオライシスは、YAGレーザーを使って、飛蚊症の症状の原因となっている眼の中の硝子体の中の浮遊物(フローター)を蒸発させることにより、飛蚊症の気になるわずらわしい症状を改善する治療です。これまでは、飛蚊症の症状を自覚すると、飛蚊症の症状を我慢して慣れるか、感染、黄斑浮腫、網膜剥離、白内障などの合併症が起こるリスクが高い硝子体手術を受けるかの、どちらかしかありませんでした。しかし合併症が深刻であるために、大多数の眼科医は、飛蚊症のために硝子体手術をすることをできる限り避けてきたのです。
 レーザービトレオライシスは、硝子体手術のように眼球を穿孔する(穴をあける)ことなく、レーザーを硝子体の浮遊物に効率的にあてて蒸発させます。痛みもなく椅子に座ったままで治療できるので、患者さんの身体的・精神的負担が大幅に少なくなりました。
 飛蚊症をYAGレーザーによって治療するという考えは、1980年代からありましたが、従来のYAGレーザーは、眼の前の方にある後嚢と虹彩切開術の治療を目的として設計されているので、水晶体より後ろの方にある硝子体の中が十分に観察できず、治療の目標物である浮遊物を識別することが困難でした。そのため従来のYAGレーザーでは、眼内の組織を傷つける危険性が高いため、飛蚊症の治療としては使われないでいたわけです。しかし1985年に創業して以来、眼科医療レーザー研究開発の最先端を走ってきているオーストラリアのEllex社が、非常に性能が進化したYAGレーザーUltra Q Reflex™を2012年に開発し、飛蚊症の治療がYAGレーザーにより行えるようになりました。フォーカス・エラーや水晶体や網膜へのダメージを最小限に抑えるので、飛蚊症のわずらわしい症状を効果的に改善することができるようになったのです。Ellex社のUltra Q Reflex™では、治療をする医師の視野、照明光路、および治療ビームが同一光路に収束され、同軸上に焦点を合わせることで、水晶体前後嚢や虹彩のみならず硝子体もよく見えるので、治療の標的となる組織へ正確な焦点を合わせることができ、高い効率で精密な組織切開をすることができるようになっています。
 今でも、飛蚊症を積極的に治療するべきではないと考えている医師は、日本国内のみならず海外においても多いと思いますし、昨年までの遠谷眼科もそうでした。しかしながら、眼科医療は進化し続けており、何よりも、このEllex社のYAGレーザーの開発に協力し、実際に使って飛蚊症の治療をリードしているのが、ベルギーのアントワープ大学のマリージョゼ・タシニョン先生であるということを知ってからは、このYAGレーザーによる飛蚊症治療が「まゆつばもの」ではなくて、医学的信用が十分におけるものであろうと考えるようになりました。それはなぜかというと、タシニョン先生が、過去にはESCRS(ヨーロッパ白内障屈折矯正手術学会)のプレジデントもつとめられた誉れ高い眼科医であり、また学会では毎年、非常に難しい眼の白内障手術や手術のトラブル解決についてのコースを担当され、手先の器用な日本人医師の厳しい眼から見ても、文句なしに手術が上手だと思う医師だからです。手術が上手な医師は、手術のやり方をよく考えていて、手術中はムダな動きをしません。頭の中では、手術のリスクを最小限にするにはどうしたらいいかということを常に冷静に考えていると思います。タシニョン先生は白内障手術後の後発白内障が起こりにくい眼内レンズの開発にもかかわっています。学会でのお話を聞いていると、患者さんの見え方がもっと良くなるようにということを、いつも考えておられる先生だなと思います。このようなわけで、タシニョン先生をはじめとして、日本では京都府立医科大学の木下茂先生が研究会(レーザービトレオライシス研究会)をリードされているのですが、視力のみならず、飛蚊症の症状を改善することにより見え方の質も追求していこうという世界的に著名な医師たちの考え方に、遠谷眼科も賛同するようになりました。
 どんなに性能のいい眼内レンズを白内障手術で眼の中に入れて、患者さんに喜んでもらっても、そのあと飛蚊症のために見づらくなってしまったら、眼内レンズの性能は十分に発揮されなくなってしまう、それでは白内障手術の本当の意味がない、とタシニョン先生はお話されていました。せっかくきれいに白内障手術をしても、それが飛蚊症のために台無しになってしまったら、手術後に良く見えるようになったという患者さんの喜びも、今度はゆううつな悲しい気持ちに変わってしまいます。患者さんの見え方の質というものを考えたときに、白内障手術はうまくいったのだけれど、そのあとに起こった(あるいは前からある)飛蚊症は仕方がないから、飛蚊症のせいで見づらい点についてはあきらめてください、と患者さんにいうことは、つらいことです。もちろん限界はあるにしても、性能の高いYAGレーザーが開発された現在では、見え方の質を落とす飛蚊症とも、できるだけ戦うべきではないかと思っています。
 ただ、この治療ができる飛蚊症か、そうでない飛蚊症かは、治療の安全性の観点から飛蚊症の状態を実際に見てみないとわからないので、診察を受けてから医師と相談することになります。そしてYAGレーザーで治療が可能である飛蚊症のタイプであった場合でも、レーザーを1度に眼に照射できる時間は限定されているので、飛蚊症の量や状態によっては1度のレーザー照射では症状の改善が自覚できない場合が多く、患者さんが飛蚊症改善の自覚を得るまでにはたいてい2度の治療が必要であることがこれまでの臨床結果ではわかっています。がんこな飛蚊症の場合は、2度ではなく3度の治療をしないと改善が自覚できない場合もあります。海外の臨床データでは9割超の患者さんがYAGレーザーによる治療で、飛蚊症の症状が改善したことを自覚しています。
 どの程度まで飛蚊症の症状が改善すれば治療を終了するかということには、個人差があります。飛蚊症の状態によっては、ここまでの飛蚊症はYAGレーザーによる治療が可能だけれども、ここからの飛蚊症はもう治療しないで放っておいた方がよいということもあります。
 飛蚊症とひとことでいっても、いろいろな種類があり、年をとることで自然にでてくるものや、失明につながるような深刻な病気の前触れとして起こるものがあります。急に黒い点が増えたり、目の前に墨が流れてきたように見えたりする飛蚊症は、網膜剥離や硝子体出血という失明につながる重い病気につながることがありますから、とても注意しないといけません。飛蚊症の治療を希望する人は、今起こっている飛蚊症が、どのような飛蚊症なのか、重い病気につながる深刻な飛蚊症なのか、病気にはそれほどつながらない、治療してもよい軽い飛蚊症なのかどうか、まずきちんと診察を受けてから考えてみてください。

(2017年7月)

レーザービトレオライシス研究会のウェブサイト
https://laser-vitreolysis.net/floaters/